5 プリンシパル、エージェント、動機づけ(測りすぎ)pp.50-51 l13

ミュラー, ジェリー・Z『測りすぎ』


Part Ⅱ

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5 プリンシパル、エージェント、動機づけ


専門知識が非難を浴びていた数十年、民間企業も株主より経営陣の利益を優先したとして批判の的となっていた。

この考え方が勢いづいたのは1970年代で、そのある種学術的な本質ともいえるのが「プリンシパル=エージェント理論」だ。
経営書によくみられるこの理論は、組織、経営者、そして従業員の目的のギャップに注意を向ける。
最大の収益性と株価を求める株主の利益と、その目標から優先順位がそれてしまうかもしれない企業経営陣の利益とを一致させるという問題に注目するのだ。
プリンシパル=エージェント理論は、組織に雇われているものを信頼してはいけないという一般的な疑念を抽象的な言葉で明確に示している。
従業員の行動は監視・測定されなければならず、その測定は組織についての直接的な知識を持たない人間にもはっきりと見えなければならない。
そして、金銭的な報酬や懲罰が「エージェント」に動機づけをするもっとも効果的な方法だというのだ。
ここでも、数字は客観性を保証する手段とみなされ、経験に基づく知識と人間同士の信頼に置き換わるものだと考えられている。

プリンシパル=エージェント理論は当初、CEOに彼らが率いる企業の利益や株価に応じてボーナスを出す仕組みを生んだ。のちに、それが経営トップに企業のストックオプションを与える計画へと変化する。
どちらの場合も、狙いは管理職のインセンティブを企業オーナーのインセンティブと一致させることで、オーナーの唯一の関心事は会社の収益性だと(妥当に)仮定された。

プリンシパル=エージェント理論は、特定の関心事を持つ者(プリンシパル)その関心事を実行するために雇われた者(エージェント)との関係関係から成るネットワークとして組織を捉える。
その視点はプリンシパルのもので、エージェントの関心事がプリンシパルのそれとはずれているというのが前提だ。
たとえば、企業の株主の関心は収益と利益率を最大化することだ。
だが経営者の関心は自らの地位を高めるこれみよがしなオフィスと目立つプライベートジェットを持つことかもしれないし、階級が下の従業員の関心はできるだけ少ない労力で給料をもらうことかもかもしれない。
ここでプリンシパルにとっての難題は、エージェントたちに彼らの優先事項ではなく、自分の優先事項を実行するよう動機づけすることだ。
そうすると、必然的には生じる問題が、監視だ。
エージェントたちが実際になにをやっているのか、自分の目標を達成するためにどのくらいちゃんと働いているのかを、プリンシパルはどうすれば知ることができるだろう?
ここで組織がおこなわなければならない二つのことは、上層部に部下の活動情報を提供すること、エージェントとプリンシパルの関心を一致させられるような報奨制度を考案することだ。
情報を求める手旅路が向かう先は、エージェントがプリンシパルの目標をどれだけうまく達成しているかをプリンシパルに効果的に伝える標準化された数字、すなわち実績基準なのだ。
インセンティブを一致させるということは、企業の収益性に見合った金銭的報酬を従業員に与えるということになる。
企業がもうかれば、従業員も儲かるというわけだ。

経営についての専門書は、プリンシパル=エージェント理論から独自の結論を導き出した。
経営は一方では目標を設定するということであり、それから監視と動機づけをおこなうことだというものだ。
経営は一方では情報と報告のシステム、そしてもう一方では巧妙に構築された報酬に依存しているのだ。


┣ 4 なぜ測定基準がこれほど人気になったのか ┣ 5 ┣ 6 哲学的批判


A 参照

ミュラー, ジェリー・Z『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』2019年 みすず書房 978-4-622-08793-9

ミュラー, ジェリー・Z『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか? Kindle版』2019年 みすず書房

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キング, スティーヴンス『書くことについて』2013年 小学館 978-4-09-408764-2

キング, スティーヴンス『書くことについて ~ON WRITING~ Kindle版』2013年 小学館

木下 是雄『理科系の作文技術』1981年 中央公論新社 978-4-12-100624-0

木下 是雄『理科系の作文技術(リフロー版)』1981年 中央公論新社